成年後見制度の利用件数と現状|伸び悩む理由とデータで徹底解説

私は司法書士事務所で10年以上、後見申立ての案件に補助者として関わり、自分の父の申立ても経験しました。その立場から、数字の現状と「正直なところ使うべきか」までを噛み砕いて書きます。
この記事で分かること。最新の利用件数と申立件数、普及が伸びない本当の理由、申立ての流れと費用、家族信託など代替手段との使い分けです。読み終えたら、自分のケースで動くべきか判断できるはずです。
成年後見制度の利用件数と現状をまず結論で押さえる

先に数字を出します。制度の利用者は令和6年12月末時点で25万3,941人。前年同月比で約1.8%の増加です。増えてはいるものの、伸びは緩やかです。
利用者数・申立件数の最新動向
裁判所の「成年後見関係事件の概況」によると、令和6年12月末時点の利用者の内訳はこうなっています。
| 類型 | 利用者数 | 前年同月比 |
|---|---|---|
| 成年後見 | 179,373人 | 約0.3%増 |
| 保佐 | 54,860人 | 約2.8%増 |
| 補助 | 16,913人 | 約4.8%増 |
| 任意後見 | 2,795人 | 約0.8%増 |
| 合計 | 253,941人 | 約1.8%増 |
申立件数(後見・保佐・補助開始、任意後見監督人選任の合計)は令和6年が4万1,841件。前年の4万951件から約2.2%増えました。後見開始の審判申立てだけ見ると2万8,785件です。
認知症患者の増加と想定される潜在ニーズ
ここが一番のポイントです。認知症の人は今後さらに増えると見込まれているのに、後見制度の利用者は25万人台。対象になりうる人の規模に対して、明らかに使われていません。
厚生労働省も、各類型の利用者数はいずれも増加傾向にあると整理しています。ただ「増えている」と「足りている」は別の話です。
普及率が伸び悩んでいる現実
前年比1.8%増という数字を、私は「伸び悩み」と読みます。認知症の増加スピードに、制度利用がまったく追いついていないからです。
とくに任意後見は2,795人で、制度全体の約1.1%にすぎません。元気なうちに自分で後見人を決めておく仕組みなのに、ほとんど広まっていない。現場でも「任意後見をやりたい」という相談はまれでした。
そもそも成年後見制度とは?仕組みと種類をやさしく解説
成年後見制度は、判断能力が不十分な人の財産管理や契約を、本人に代わって支える仕組みです。裁判所の統計でも、成年後見・保佐・補助・任意後見の4つに区分されています。

法定後見と任意後見の違い
大きく分けると2種類。すでに判断能力が落ちてから家庭裁判所に申し立てる「法定後見」と、元気なうちに自分で後見人と契約しておく「任意後見」です。
| 項目 | 法定後見 | 任意後見 |
|---|---|---|
| 利用するタイミング | 判断能力が落ちた後 | 元気なうちに準備 |
| 後見人を決める人 | 家庭裁判所 | 本人が自分で選ぶ |
| 内容の自由度 | 法律で範囲が決まる | 契約で決められる |
| 令和6年末の利用者数 | 約25万人(3類型計) | 2,795人 |
任意後見の利用者がこれだけ少ないのは、正直もったいないと感じます。自分の意思を反映できる唯一の方法なのに、知られていないんです。
後見・保佐・補助の3類型の使い分け
法定後見はさらに3つに分かれます。本人の判断能力がどれくらい残っているかで決まります。判断能力がほとんどない場合が「後見」、不十分な程度に応じて「保佐」「補助」です。
統計でもこの順に利用者が多く、令和6年末の構成比は成年後見が約70.6%、保佐が約21.6%、補助が約6.6%でした。重い類型ほど使われている、という現状が見えます。
誰がどんなときに利用するのか
典型は、認知症の親の預金を引き出したい、施設入所の契約をしたい、実家を売りたい、というケースです。銀行や役所が「本人の意思確認ができない」と止めるため、後見人が必要になります。
私の父のときも、まさに預金が動かせなくなったのがきっかけでした。制度は「困ってから」動く人が多い。だから法定後見が圧倒的に多いわけです。
利用件数が伸び悩む根本原因を深掘りする
前年比1.8%増という鈍さの背景には、複数の理由が重なっています。現場で何度も見た「使われない理由」を正直に書きます。

手続きの煩雑さと申立てまでのハードル
まず書類が多い。診断書、戸籍、財産目録、収支予定表など、揃えるだけで一苦労です。家庭裁判所への申立ては、慣れていない人には心理的にも重い。
父の申立てのときも、診断書を医師に書いてもらうところで止まりかけました。日々の介護で疲れている家族には、この事務作業がきついんです。
一度始めると途中でやめられない仕組み
これが最大のブレーキだと私は思います。後見はいったん始まると、原則として本人が亡くなるまで続きます。「実家を売る用事が済んだからやめたい」は通りません。
目的が終わっても後見人は残り、報酬も発生し続ける。この一方通行さが、申立てをためらわせる一番の理由だと感じています。
報酬や使い道の制限への不安
専門職が後見人になれば、毎年報酬が発生します。さらに、財産は本人のためにしか使えません。孫の入学祝いや家族への贈与といった、それまで当たり前だった支出ができなくなることがあります。
「自分の親のお金なのに自由に使えない」。この感覚に戸惑う家族を何度も見ました。制度の趣旨は理解できても、心情的には引っかかる部分です。
制度そのものの周知不足
そもそも知られていない、という根の深い問題もあります。とくに任意後見は、元気なうちに準備すれば選択肢が広がるのに、利用者は全体の約1.1%。存在を知る前に判断能力が落ちてしまう人が多いのが実情です。
申立てから利用開始までの流れ・必要書類・費用

ここは実務に直結する部分です。法定後見(後見開始)を例に、流れを整理します。なお、手数料や鑑定費用などの金額は、裁判所の手続案内で最新を確認してください。本記事では一次情報で確認できた件数のみ数値を記載します。
申立ての手順と必要な書類
流れはおおむねこうです。家庭裁判所に申立て、書類審査と面接、必要に応じて医師の鑑定、そして審判で後見人が決まります。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 申立書一式 | 後見開始の申立書、申立事情説明書など |
| 本人の診断書 | 判断能力の程度を示す医師作成の書類 |
| 戸籍謄本・住民票 | 本人および後見人候補者のもの |
| 財産目録・収支予定表 | 預貯金・不動産・収入支出の状況 |
| 登記されていないことの証明書 | すでに後見等を受けていないことの確認 |
かかる期間と申立費用の目安
期間は事案によりますが、申立てから審判まで数か月かかることが多いです。鑑定が入るとさらに時間が延びます。費用は申立手数料・登記手数料・郵便切手などがかかり、鑑定が必要な場合は鑑定費用が加わります。
正直に言うと、金額は管轄や事案で変わるため、ここで断定するより裁判所の手続案内で確認するのが確実です。私も父のときは管轄の家庭裁判所に直接問い合わせました。
利用開始後にかかるランニングコスト
見落としがちなのが、始まった後の負担です。専門職が後見人になると、家庭裁判所が定める報酬が毎年発生します。本人が亡くなるまで続くため、トータルでは決して小さくありません。
私の感覚では、ここを試算せずに申し立てると後悔します。「いくらか」より「いつまで続くか」で考えると、負担の重さが見えてきます。
統計データから読む利用動向と専門職後見人の現状
数字をもう少し掘ります。長期で見ると利用は確実に増えてきました。ただし中身は変化しています。

申立件数の年次推移と長期トレンド
令和6年の申立件数は4万1,841件で、前年の4万951件から約2.2%増。後見開始は2万8,785件、任意後見監督人選任は874件でした。全体として右肩上がりですが、伸び幅は緩やかです。
利用動機の内訳(財産管理・身上保護など)
類型の構成比の変化が興味深い。平成30年12月末と令和6年12月末を比べると、補助・保佐の割合が増えています。
| 類型 | 平成30年末 | 令和6年末 |
|---|---|---|
| 成年後見 | 約77.7% | 約70.6% |
| 保佐 | 約16.4% | 約21.6% |
| 補助 | 約4.6% | 約6.6% |
| 任意後見 | 約1.2% | 約1.1% |
重い「後見」一辺倒から、判断能力が残っている人向けの保佐・補助へ少しずつ広がっている。本人の意思をより尊重する方向に動いているように見えます。
親族後見と専門職後見人の選任状況
申立てのきっかけとして、市区町村長申立ても無視できません。平成30年12月末時点で7,705件、総数の21.3%を占め、地域差も大きいと示されています。身寄りのない高齢者を行政が支える役割が大きいわけです。
後見人を誰にするかは、親族か専門職か。財産が多い・親族間に争いがあるといった事情があると専門職が選ばれやすい、というのが現場の肌感覚です。
国の取り組みと今後の動向
伸び悩む現状を、国も問題視しています。利用を促す仕組みづくりと、制度そのものの見直し議論が並行して進んでいます。

成年後見制度利用促進基本計画(第二期)の内容
国は成年後見制度利用促進基本計画を進めており、第二期では「本人の意思をより尊重する運用」と「使いやすさの改善」が柱になっています。重い後見一択ではなく、必要な範囲で支える方向です。
前述の構成比の変化、つまり保佐・補助が増えている流れは、この方針と重なって見えます。
中核機関・地域連携ネットワークの整備状況
市区町村に「中核機関」を置き、相談から後見人の支援までをつなぐ地域連携ネットワークの整備が進んでいます。ただ整備状況には地域差があり、ここが今後の課題です。
市区町村長申立てが2割を超える地域があることからも、行政の関与の度合いは地域でかなり違うとわかります。
法制審議会での見直し議論と法改正の方向性
「一度始めるとやめられない」という制度の根本部分について、見直しの議論が進んでいます。目的が達成されたら利用を終えられるようにする、といった方向が論点です。
もしこれが実現すれば、申立てをためらう最大の理由が一つ消えます。私が一番注目しているのはここです。
家族信託など代替手段との使い分け

成年後見が万能ではない以上、ほかの手段との比較は欠かせません。とくに家族信託への関心が高まっています。
家族信託への期待が高まる背景
家族信託は、財産の管理を家族に託しておく契約です。後見と違い、自由度が高く、報酬も身内なら抑えやすい。元気なうちに準備できる点も支持されています。
ただし家族信託は基本的に財産管理が中心で、施設入所などの身上保護はカバーしきれません。万能ではない、ここは正直に押さえておきたい点です。
任意後見・日常生活自立支援事業との比較
代替手段はほかにもあります。目的に応じて選ぶのが現実的です。
| 手段 | 得意なこと | 注意点 |
|---|---|---|
| 法定後見 | 判断能力が落ちた後の財産管理・身上保護 | 原則やめられない・報酬が続く |
| 任意後見 | 元気なうちに後見人と内容を決める | 監督人が付き報酬が発生 |
| 家族信託 | 柔軟な財産管理・承継の設計 | 身上保護はカバーしにくい |
| 日常生活自立支援事業 | 日常的なお金の管理・福祉サービス利用支援 | 大きな財産処分には不向き |
利用すべきケースと利用しなくてよいケースの判断基準
私の判断軸はシンプルです。今すぐ預金を動かす・不動産を売る・施設契約が必要、なら法定後見が現実的。逆に、まだ元気で将来に備えたいなら任意後見や家族信託を先に検討します。
はっきり言うと、目的が一回限り(実家の売却だけ等)なのに後見を始めると、その後ずっと報酬を払い続けることになります。そこは慎重に。
現場の視点で見る注意点とよくある質問
最後に、相談の現場でよく出るつまずきと疑問をまとめます。任意後見の利用者が約1.1%にとどまる現状は、ここに原因がある気がしています。

諸外国の制度と比べた日本の現状評価
日本の後見は「いったん始めると続く」運用が、利用をためらわせてきました。本人の判断能力が回復しても終わりにくい点は、課題として議論が続いています。だからこそ法制審の見直しが注目されているわけです。
実際のつまずきポイントと回避のヒント
よくあるつまずきは3つ。診断書が取れず止まる、書類集めで挫折する、報酬の負担を後から知る。父の申立てで私もすべて経験しました。
回避のコツは、動く前に管轄の家庭裁判所と中核機関に相談することです。費用と続く期間を先に確認し、家族信託など代替手段とも比べてから決める。順番を逆にすると後悔します。
費用・始め方に関するよくある質問
よくある質問
制度は増えているのに足りていない。この現状を踏まえ、まずは「目的が一回限りか、長く続くか」を整理してください。それだけで、後見か代替手段かの方向が見えてきます。迷ったら、申立て前に管轄の家庭裁判所へ一本相談を。
