成年後見制度とは?費用・始め方・デメリットをわかりやすく徹底解説

ただ正直に言うと、始める前に知っておくべき注意点も多い制度です。一度始めると原則やめられない、後見人への報酬が一生かかる、といった話を聞いて不安になっている方も多いはず。
この記事では、制度の仕組み・費用の相場・始め方の流れ・デメリットまでを、司法書士事務所で10年以上後見案件に関わり、自分の父の申立ても経験した私の視点で整理します。家族信託との比較や実例も載せました。
成年後見制度とは?まず知っておきたい基本

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が不十分になった人を、法律面から保護・支援する制度です。財産の管理や、福祉サービスの契約などを本人に代わって行います。
最高裁判所の概況によると、令和6年(2024年)12月末時点の利用者数は253,941人。前年の249,484人から約1.8%増えています。じわじわと使う人が増え続けているのが実情です。
制度の目的と仕組みをやさしく解説
仕組みはシンプルです。家庭裁判所が「後見人」を選び、その人が本人の代わりに預貯金を管理したり、必要な契約を結んだりします。
判断能力が落ちると、本人ひとりでは銀行手続きや施設入所の契約が難しくなります。悪質な訪問販売に引っかかるリスクもある。そうした不利益から本人を守るのが、この制度の役割です。
制度を支える基本理念(自己決定の尊重・本人の利益保護)
後見人は何でも勝手に決めていいわけではありません。制度の根っこには「本人の自己決定をできるだけ尊重する」という考え方があります。
本人に残っている判断能力(現有能力)を活かし、施設に閉じ込めず地域で暮らす(ノーマライゼーション)。これらを土台に、最終的に本人の利益を守る。私が現場で見てきた限り、ここを理解していない後見人は信頼されません。
法定後見と任意後見の違い
成年後見制度は、大きく「法定後見」と「任意後見」の2つに分かれます。判断能力が衰えた後に使うか、衰える前に備えておくかの違いです。
| 項目 | 法定後見 | 任意後見 |
|---|---|---|
| 使うタイミング | 判断能力が衰えた後 | 衰える前にあらかじめ契約 |
| 後見人を選ぶ人 | 家庭裁判所が選任 | 本人が事前に指定 |
| 手続きの起点 | 家庭裁判所への申立て | 公正証書で任意後見契約 |
| 登記手数料 | 収入印紙2,600円 | 収入印紙1,400円 |
元気なうちに「この人に任せたい」と決めておけるのが任意後見の強みです。ただ実際は、認知症が進んでから慌てて申立てをする法定後見のケースが圧倒的に多いのが現実です。
どんな人がどんな時に利用できるのか
判断能力が衰えた後なら法定後見、衰える前なら任意後見。これが大原則です。
たとえば「親の口座が凍結されて生活費が下ろせない」「実家を売って施設費に充てたい」といった、今まさに困っている場面は法定後見の出番です。
後見・保佐・補助の3類型の違いを比較
法定後見は、本人の判断能力の程度によって「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれます。一番重いのが後見、軽いのが補助です。

厚生労働省の資料では、平成30年12月末時点の利用者構成は成年後見が約77.7%、保佐が約16.4%。実際には最も重い「後見」の利用が多数を占めています。
3類型の判断能力と権限の比較表
| 類型 | 対象となる人 | 支援する人の権限 |
|---|---|---|
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態 | 財産に関する広範な代理権・取消権 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 重要な行為への同意権・取消権、申立てで代理権 |
| 補助 | 判断能力が不十分 | 申立てで定めた範囲の同意権・代理権 |
後見は本人に代わってほぼすべての財産行為ができます。一方、補助は「特定の手続きだけ手伝ってほしい」という軽度のケース向け。本人の同意がないと申立てできない点も特徴です。
それぞれの類型が向いている人
重度の認知症で意思疎通が難しい人は後見。日常会話はできるが大きな契約は不安、という人は保佐。買い物など簡単なことはできるが一部だけ支えてほしい人は補助、というのが目安です。
どの類型になるかは、医師の診断書と家庭裁判所の判断で決まります。自分で選ぶものではありません。
認知症・知的障害・精神障害など障害別の活用法
認知症の場合は進行度に応じて後見〜補助まで幅があります。知的障害の方は、若いうちから補助や保佐で長く支えるケースが多い。精神障害は症状の波があるため、本人の状態を見ながら類型を選びます。
私が関わった案件でも、同じ「認知症」でも進行度で類型が分かれました。診断書の内容を医師ときちんと相談することが、適切な類型選びの第一歩です。
成年後見制度にかかる費用の相場と内訳
費用は大きく「申立て時の初期費用」と「後見人への報酬」の2つに分かれます。ここを曖昧にしたまま始めて後悔する人が一番多い。正直、ここが制度の最大のハードルです。

申立てにかかる費用(診断書・登記・印紙代など)
申立て時の費用は、厚生労働省の資料に内訳が示されています。鑑定をしない限り、数千円〜1万円台で収まることが多いです。
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 800円(保佐・補助の代理権等付与は各800円追加) |
| 登記手数料(収入印紙) | 2,600円(任意後見は1,400円) |
| 送達・送付費用(郵便切手) | 3,000円〜5,000円程度 |
| 鑑定費用(実施する場合) | 5万円〜10万円程度 |
鑑定は「本当に必要か」を医師が改めて調べる手続きで、費用が一気に上がります。ただし最高裁の概況では、平成30年に鑑定を実施した割合は全体の約8.3%。実際にはほとんどのケースで鑑定は行われません。鑑定費用も5万円以下が最も多いと示されています。
後見人へ支払う報酬の目安
見落としがちなのが、毎年かかり続ける後見人報酬です。報酬は家庭裁判所が、本人の財産額などを考慮して本人の財産から支払うと決めます。
| 本人の財産額 | 基本報酬(月額) |
|---|---|
| 通常(基準) | 2万円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 3万〜4万円 |
| 5,000万円超 | 5万〜6万円 |
さらに、特別に手間のかかる事情があれば、基本報酬額の50%の範囲内で付加報酬が加算されることがあります。月2万円でも年間24万円。これが本人が亡くなるまで続くと考えると、決して軽い負担ではありません。
費用の負担を軽くする助成・支援制度
財産が少なく報酬が払えない場合、市区町村が申立費用や後見人報酬を助成する「成年後見制度利用支援事業」があります。住んでいる自治体に制度があるかどうかで使えるかが変わるので、まず役所の窓口で確認してください。
私の経験では、ここを知らずに「お金がないから諦める」と言う家族が少なくありませんでした。助成があれば実質負担はかなり下がります。
成年後見制度の始め方と申立ての流れ

始め方は、相談→書類準備→家庭裁判所への申立て→選任、という流れです。ここでは具体的な手順を、つまずきやすいポイントとあわせて説明します。
市区町村・相談窓口への相談
最初の相談先は、市区町村の窓口、地域包括支援センター、社会福祉協議会の中核機関などです。ここで「そもそも後見が必要か」「どの類型か」の見当をつけます。
司法書士や弁護士に最初から依頼することもできます。書類作成を丸ごと頼みたいなら専門家、費用を抑えたいなら自分で申立て、と分かれます。
必要書類と診断書・本人情報シートの準備
申立てには、申立書、本人の戸籍謄本、住民票、財産目録、収支予定表などが必要です。中でも要になるのが、医師が書く「診断書」と、福祉関係者が書く「本人情報シート」です。
本人情報シートは、本人の生活状況を医師に正しく伝えるための書類です。これがあると診断書の精度が上がり、適切な類型判断につながります。ケアマネジャーなどに早めに依頼しておくとスムーズです。
家庭裁判所への申立てから選任までの期間
書類が揃ったら家庭裁判所へ申立てます。その後、調査官による面談や審理を経て、後見人が選任されます。
鑑定が必要になっても、最高裁の概況では鑑定期間は1か月以内が最も多く全体の約50.7%。鑑定をしないケースなら、申立てから選任まで数か月程度で進むことが多いです。
後見人の具体的な仕事内容と日常業務
後見人の主な仕事は、財産管理と身上監護の2つです。預貯金の管理、年金や保険の手続き、施設費の支払い、福祉サービスの契約などを行います。
そして年に1回、家庭裁判所へ収支や財産状況を報告する義務があります。介護そのものをするわけではなく、あくまで法律行為と財産の管理が役割。ここを誤解している家族は多いです。
知っておきたいデメリットと後悔・トラブル事例
便利な制度ですが、デメリットもはっきりあります。正直に言うと、ここを知らずに始めて「こんなはずじゃなかった」となる人を何人も見てきました。

途中でやめられるのか(中止・取消の可否)
最大の注意点はこれです。法定後見は、本人の判断能力が回復しない限り、原則として途中でやめられません。「実家を売る目的が終わったから後見も終了」とはいかないのです。
一度始めると本人が亡くなるまで続き、その間ずっと報酬が発生する。これが「後見は使うと止まらない」と言われる理由です。目的が一時的なものなら、後述の家族信託も検討すべきだと私は考えます。
後見人による不正・横領のリスクと監督体制
後見人が本人のお金を使い込む不正も、残念ながら起きています。特に親族後見人での横領が問題になってきました。
これを防ぐため、家庭裁判所は年1回の報告でチェックし、必要に応じて後見監督人を選任します。財産が多い場合は、次に説明する支援信託・支援預貯金で大金を後見人が自由に動かせないようにする仕組みもあります。
後見人を変更・解任する方法
後見人と合わない、不正の疑いがある、という場合は、家庭裁判所に解任を申立てることができます。不正や著しい不行跡があれば、裁判所の判断で解任されます。
ただし「気に入らないから変えたい」だけでは認められません。あくまで正当な理由が必要です。
支援信託・支援預貯金による財産保護の仕組み
成年後見制度支援信託・支援預貯金は、日常で使わない大きなお金を信託銀行などに預け、引き出すには家庭裁判所の指示書を必要とする仕組みです。
これにより、後見人が勝手に大金を動かせなくなります。横領防止として、財産の多い案件では家庭裁判所から利用を促されることがあります。
成年後見制度と家族信託・日常生活自立支援事業の使い分け
「後見しかない」と思い込む前に、似た制度を知っておいてほしいです。家族信託や日常生活自立支援事業は、目的によっては後見より使い勝手がいい場合があります。

それぞれの特徴と費用の比較
| 制度 | 主な目的 | 判断能力 | 費用感 |
|---|---|---|---|
| 成年後見制度 | 財産管理・身上監護全般 | 衰えた後でも利用可 | 申立費用+月額報酬が継続 |
| 家族信託 | 財産の管理・承継を柔軟に設計 | 契約時に判断能力が必要 | 初期設計費用が中心(継続報酬なし型も可) |
| 日常生活自立支援事業 | 日常的な金銭管理・福祉手続きの支援 | 軽度の判断能力低下向け | 利用料が比較的低額 |
家族信託は元気なうちに契約しておく必要があります。判断能力が衰えてからでは使えません。逆に言えば、衰えた後の選択肢は実質的に法定後見だけになります。
場面別のおすすめの選び方
私の率直な意見を言います。すでに認知症が進んでいて口座凍結や不動産売却に困っているなら、迷わず法定後見です。他に手がありません。
一方、親がまだ元気で「将来の財産承継まで設計したい」なら家族信託が向きます。日常のお金の出し入れだけ不安、という軽いケースは日常生活自立支援事業で十分なこともあります。
2026年予定の制度改正・利用期間見直しの動向
今の制度は「一度始めると本人が亡くなるまで続く」点が長く批判されてきました。これを受けて、必要な期間だけ利用できるようにする見直しの議論が進んでいます。
利用期間の見直しは、まさにこの「やめられない」問題への対応です。動向は流動的なので、申立て前に最新情報を専門家へ確認することをおすすめします。
実例で見る成年後見制度の活用ケース

制度の説明だけでは実感がわきにくいので、私が現場で見た典型的なケースを紹介します。具体的な場面で考えると、使いどころが見えてきます。
親族が後見人になった場合の体験談
私自身、父の申立てで母が後見人候補になったことがあります。親族後見は報酬を抑えられる一方、年1回の報告書づくりが想像以上に大変でした。
領収書を一年分ためて収支を整理し、財産目録を作る。慣れない母は何度も挫折しかけました。親族後見を選ぶなら、書類作業の負担を覚悟しておいたほうがいいです。財産が多い案件では、家庭裁判所が専門職後見人を選ぶこともあります。
居住用不動産の売却など特定場面の手続き
実家を売って施設費に充てる、というのは後見でよくある場面です。ただし本人が住んでいた居住用不動産の売却には、家庭裁判所の許可が別途必要です。
後見人だからといって勝手に売れるわけではありません。本人の住まいは生活の基盤なので、裁判所が「本当に売る必要があるか」を慎重に審査します。ここを知らずに買主と話を進めると、後で止まります。
本人死亡後の後見終了とその後の対応
本人が亡くなると、後見は自動的に終了します。後見人は財産の管理を相続人へ引き継ぎ、家庭裁判所へ最後の報告をします。
注意したいのは、後見人は相続手続きそのものを担当しないこと。死亡後は相続人の役割に切り替わります。葬儀費用の支払いなど、終了直後にできる範囲は限られている点も覚えておいてください。
成年後見制度のよくある質問(FAQ)
最後に、相談の現場で特に多かった質問をまとめます。費用・後見人の要件・期間という、皆が必ず気にする3点です。

よくある質問
成年後見制度は、困っている家族を確実に救う制度です。同時に、一度始めると止められない・報酬が続くという重さもあります。
まずやるべきは、市区町村の窓口か地域包括支援センターへの相談予約です。診断書を医師に依頼しつつ、家族信託など他の選択肢が使える状況かもあわせて確認する。動き出すなら、今日その電話一本からです。
